AIに電話をさせるとき、候補者体験を落とさない設計

AIに電話をかけさせると聞くと、まず「相手に失礼にならないか」が気になると思います。私たちも同じでした。そこで机上で16周の敵対的レビュー(わざと粗探しをする社内レビュー)を回し、指摘は0件になりました。ところが実際に音声を通してみたら、不具合が5件出ました。この記事では、AI架電で候補者体験を落とさないために何を設計するべきかを、弊社が実際にやらかした失敗3件と本番の通話実測から説明します。

「会話が自然かどうか」は、いちばん大事な指標ではありません

AI架電の良し悪しは、声の自然さで語られがちです。デモを聞いて「人っぽいですね」と言われることもあります。ですが、候補者体験がいちばん大きく傷つくのは、声が少し機械的だったときではありません。

傷つくのは、事故が起きたときです。就業中のスタッフに面談の台本で話しかけてしまう。夜中にかかってくる。断ったのにまたかかってくる。名乗らないまま個人的な話を聞き出そうとする。どれも「会話の自然さ」をどれだけ磨いても防げません。防げるのは設計です。

ですから私たちは、AIの品質を「どれだけ人間らしく喋るか」ではなく「事故が起きない構造になっているか」で見ています。以下は、その考え方に至るまでに実際に踏んだ地雷です。

柱1: 名乗りと同意を、会話の中身より先に置く

電話を受けた人が最初に知りたいのは、内容ではありません。「誰から」「なぜ」「今話していいのか」の3つです。ここが曖昧なまま本題に入ると、どれだけ流暢でも不信感が先に立ちます。

そこで私たちは、この3つを会話の先頭に置くことを設計方針にしています。名乗り、用件、そして今お時間をいただいてよいかの確認です。会話の流れで後回しにされない位置に固定する、という考え方です。

そのうえで、仕組みとして担保している部分があります。掘り起こしでは、連絡停止(DNC。もう連絡しないでほしいという意思表示)を尊重します。あわせて曜日・時間帯・試行回数に上限を設けており、上限を超える発信はしません。「かけられる限りかける」のではなく「かけてよい範囲でだけかける」という作りです。

この考え方の背景には、元人材派遣営業だった弊社のプロダクト責任者の実体験があります。新規開拓の架電は1日200件、アポにつながるのは約2%(1日およそ4件)でした。裏を返せば、196件は不発です。人がかけていた時代から、電話は圧倒的に「かかってくる側」に負担が寄る手段でした。自動化すると、この非対称がさらに拡大します。だからこそ、止める条件を先に決めておく必要があります。

出所: 元人材派遣営業だった弊社のプロダクト責任者への2026年8月21日のヒアリング。新規開拓の架電は1日200件、アポ率は約2%。

柱2: 机上のテストでは、わからないことがあります

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。私たちは同じ性質の失敗を2回しました。

1つ目。就業後フォローの機能について、机上で16周の敵対的レビューを回しました。仕様書とコードを突き合わせ、粗探しをする形式です。16周目で指摘は0件になりました。ここで完成としてもおかしくない状態でした。ところが、実際に音声を通して会話させたところ、不具合が5件出ました。文字の上でどれだけ検証しても、声が行き来する経路にしか現れない問題があるということです。

2つ目。バックエンド(画面の裏側の処理)のテストは2,000件が緑(すべて成功)でした。それでも、実際に画面から操作すると使えませんでした。投入直後に4件の不具合が露見しています。裏側が正しく動くことと、人が画面から使えることは別の問題でした。

この2つから、社内では次のルールにしています。

  • 会話する機能は、人が1回実際に喋るまで「完成」と呼ばない
  • テストが緑であることは、動く根拠ではなく「まだ壊れていないことの一部」でしかない
  • 本番に出すときは、止められるスイッチ(機能フラグ)を先に用意する

なぜここを公開するかというと、AI架電を検討される際に「デモが上手いこと」を判断材料にしてほしくないからです。デモは机上のテストと同じで、事故が起きない構造の証明にはなりません。見ていただきたいのは、事故を起こしたときに何を直したか、そして止める仕組みがあるかです。

柱3: あえて電話を使わない、という判断をしました

3つ目の失敗が、いちばん設計に効きました。就業後フォロー(就業を始めたスタッフへの様子うかがい)で、私たちは電話をやめています。

理由はこうです。面談用の電話番号からフォローの発信をすると、その番号にスタッフがかけ直したときに、着信が面談の受電フローに乗ってしまいます。結果として、すでに就業しているスタッフに向かって、AIが面談の台本で話しかけることになります。これは候補者体験として明確な事故です。

発信のたびに番号を出し分ける、かけ直しを判別する、といった回避策も検討しました。ですが、どれも「うまく判別できたときだけ安全」という作りになります。判別に失敗したときの被害が、得られる利便性に見合いませんでした。そこで、フォローの経路から電話そのものを外す判断をしています(社内の設計判断記録 ADR-007)。

現在のフォローは、メールまたはLINEでURLを送り、ブラウザ上で会話する形です。スタッフは自分の都合の良いタイミングで開けます。就業開始日と契約満了日の2つを入れておくと、立ち上がり確認を開始+3日、更新意向の確認を満了-12日に自動で提案し、毎朝7時に実行します。結果は11項目と400字の要約で残ります。

そして、賃金・ハラスメント・けがの申告は最優先で起票し、通知の宛先に担当営業を入れません。言いにくいことを、その相手の上長経由でしか伝えられない状態にしないためです。

この判断も、元人材派遣営業だった弊社のプロダクト責任者の実体験が下敷きになっています。本人いわく、現場でいちばんこたえたのは「派遣スタッフが飛ぶ、退職する、代替要員を探す、派遣先に怒られる」の連鎖でした。就業後フォローができていたのは全体の60〜70%。契約更新の確認は「かなりの確率で忘れる」。退職は「突然やめる」。兆候をつかむ手段が無かったということです。

出所: 同ヒアリング。就業後フォローの実施率は60〜70%、契約更新確認は「ある、かなりの確率で忘れる」。

実際の通話は、思っているより短いです

候補者体験を考えるうえで、通話の長さは重要な変数です。長ければ丁寧というわけではありません。

弊社の本番データベースで確認した通話は25件、平均74秒、中央値43秒、上位1割の境目(p90)が185秒でした。内訳は架電が平均98秒、受電が平均57秒です。ただし、これはデモを含む少数サンプルであり、運用中のお客様の実績ではありません。ALICE は現時点で利用テナントがゼロで、導入実績としてお出しできる数字はありません。この点は正直に書いておきます。

それでも、この25件から言えることはあります。中央値43秒ということは、半分の通話は1分未満で終わっています。用件が明確で、聞くことが決まっていれば、電話は短く終わるということです。逆に言えば、長く話させる設計は候補者の時間を奪っているだけかもしれません。

関連して、料金設計でも同じ間違いをしました。当初は面談30分を前提に試算したところ、総額が高くなりすぎて社内で却下されました。実際の会話に基づく20分に直しています。机上の想定を疑わなかった例です。

よくあるつまずき

  • デモの流暢さで判断してしまう。私たちは机上16周で指摘0件だった機能から、音声を通した瞬間に5件の不具合を出しました。喋りの滑らかさと事故耐性は別物です。
  • 裏側のテスト結果を根拠にしてしまう。2,000件緑でも画面から使えず、投入直後に4件露見しました。人が触る経路を実際に触るまで確認は終わりません。
  • 「かけ直してきたらどうなるか」を設計から落とす。私たちはここで、就業中のスタッフに面談の台本で話しかける事故の可能性に気付き、電話経路そのものを止めました。
  • 不在や留守電にも課金される料金体系を、そのまま受け入れてしまう。ALICE では不在・不通・留守電は AI利用料も通話料も0円です。

まとめ

候補者体験を守るのは、声の自然さではありません。名乗りと同意を先に置くこと、机上の検証を信用しすぎないこと、そして必要なら電話という手段そのものを捨てられることです。

弊社は、この3つを守るために自分たちの失敗を公開しています。16周のレビューでは見つからず音声で5件、2,000件の緑テストの後に画面で4件、そしてフォローから電話を外した判断。どれも自慢できる話ではありませんが、事故が起きない構造をどう作っているかを説明するには、これ以上の材料がありません。

参考までに、現在の料金は初期費用0円・解約金なし、基本料金1,980円/月(税込)、つながった通話300円/件、通話料28円/分(キャリア実費のパススルー)です。掘り起こしと受電は月30件まで AI利用料が無料、31件目から300円/件になります。就業後フォローは電話を使わないため通話料が0円で、月20名まで無料、21名目から300円/人・月の人数課金です。

こんな状態でしたら、一度お話を聞かせてください

  • AI架電を検討しているが、スタッフや派遣先に失礼になるのが怖くて踏み切れない。誰が名乗り、どこで止まるのかを具体的に確認したい方
  • 就業後のフォローが手一杯で回っていない。契約更新の確認を忘れて慌てたことがある、スタッフの退職が突然すぎて兆候をつかめていないという方
  • 掘り起こしを「暇な時にやる作業」で終わらせている。20〜30件かけてもほとんど出ないので、計画的な業務にできていないという方

ALICE は現在、利用テナントがゼロの段階です。導入実績をお見せすることはできません。その代わり、実際にどう動くかをそのままお見せできますし、うまくいかなかった部分も含めて共有します。お問い合わせフォームからご連絡ください。