「もう連絡できていない」休眠スタッフを、AIが定期的に掘り起こす ── 新規母集団に頼らない稼働率向上の作り方
派遣会社のデータベースには、たいてい「稼働していないスタッフ」が大量に眠っています。契約満了、案件終了、本人都合の休止── 理由はさまざまですが、共通しているのは「一度は自社に登録し、実際に働いた実績がある」という事実です。この人たちは、広告費をかけて新しく集めた応募者よりもずっと確度の高い母集団のはずです。ところが現場では、この資産は驚くほど手つかずのまま放置されています。本稿では、この「休眠スタッフの掘り起こし」という業務課題と、AI音声エージェントによる解決の考え方を整理します。
なぜ休眠スタッフは「掘り起こされない」のか
休眠スタッフへの連絡が後回しになるのは、担当者の怠慢ではありません。構造的な優先順位の問題です。コーディネーターの時間は有限で、目の前には「今すぐ埋めなければならない案件」「対応待ちの新規応募」「稼働中スタッフからの問い合わせ」が積み上がっています。これらと比べると、「3か月前に契約が終わったスタッフに、念のため連絡してみる」というタスクは、常に優先順位が低くなります。緊急ではないが重要、という典型的な業務が、日々の忙しさの中で静かに先送りされ続けているのです。
さらに厄介なのは、「誰に、いつ連絡すべきか」の判断自体にコストがかかることです。案件が急に空いたとき、担当者は記憶やExcelを頼りに「たしかあの人が空いていたはず」と探し始めます。しかし休眠期間が長くなるほど記憶は薄れ、条件の変化(すでに他社で就業している、引っ越した、条件が変わった)も把握できていません。結果として、声をかけるべき相手に声がかからず、案件は新規母集団への広告出稿で埋めることになります。すでに一度獲得した人材を活かせないまま、追加の広告費を払っているのです。
休眠スタッフは「離脱した人」ではなく「連絡のタイミングを逃しているだけの人」であることが多い。問題は本人の意欲ではなく、こちら側の連絡体制にある。
「新規母集団」より「休眠スタッフ」の方が効率が良い理由
母集団形成のための広告費は年々高騰しています。一方で、休眠スタッフには新規応募者にはない決定的な強みがあります。本人確認の手間がなく、就業実績があるため職務適性がある程度わかっており、自社の業務フローや現場のルールをすでに理解しています。つまり、コーディネーターが最初からやり直す必要がある新規応募者と比べて、掘り起こしはずっと少ない工数で成約に至ります。
問題は、この効率の良い母集団に「定期的に、もれなく、丁寧に」連絡を取り続けることが、人手では物理的に難しいという一点に尽きます。休眠スタッフが数百人、数千人の規模になると、全員に定期架電するだけでコーディネーターの稼働はいっぱいになってしまいます。ここが、掘り起こしを自動化する最大の動機です。
掘り起こし業務の実態 ── 「聞くこと」自体は難しくない
掘り起こし架電で確認すべき内容は、実はそれほど複雑ではありません。いま就業しているか、していないなら求職中か、希望条件に変化はないか、新しい案件の紹介を受ける意思はあるか── これらは定型的なヒアリングです。難しいのは会話の内容そのものではなく、「大量の対象者に、適切な頻度で、しつこくならない範囲で、繰り返し接触し続ける」という運用の継続性です。
- 現在の就業状況(就業中/求職中/その他)の確認
- 希望条件(職種・勤務地・時給・稼働可能日)の最新化
- 新しい案件紹介への意向確認
- 連絡が取れない場合の再架電スケジュール調整
- 「もう連絡しないでほしい」という意思の記録と、以後の架電停止
この最後の項目が特に重要です。掘り起こしは「相手が望まない限り、いつまでも架電し続けてよい」業務では絶対にありません。むしろ、しつこい連絡は自社の評判を損ない、退会や苦情に直結します。掘り起こしを設計するときは、「どれだけ声をかけられるか」と同じくらい、「どこで声をかけるのをやめるか」を最初に決めておく必要があります。
ALICEの掘り起こし ── 「対応結果に応じて次の一手を自動で決める」
私たちが開発する音声AIエージェント「ALICE」の掘り起こし機能は、休眠スタッフへの定期架電を、対応結果に応じて自動的に次のアクションへつなげる仕組みとして設計しています。単に「架電して終わり」ではなく、会話の結果(ディスポジション)を見て、次にいつ・どう連絡すべきかを機械が判断します。
- 就業中と分かった場合: 案件紹介は行わず、次回の確認時期まで架電を止める(過剰接触の防止)
- 求職中・案件紹介を歓迎する場合: 会話中に条件をヒアリングし、担当者へ引き継いで案件提案につなげる
- 不在・つながらない場合: 時間帯を変えて自動で再架電。ただし試行回数には上限を設け、際限なく架電し続けない
- 連絡拒否・退会意思が示された場合: 即座に架電対象から除外し、以後二度と架電しない(恒久的な架電拒否リストで管理)
この「結果に応じた自動ケイデンス」が、掘り起こしを継続可能な業務にする鍵です。人手であれば、対応結果をどこかに記録し、次回の連絡時期を担当者が個別に判断しなければなりません。この判断と記録の手間こそが、掘り起こしが後回しにされてきた最大の理由でした。ALICEはこの判断自体を仕組み化し、担当者は「案件紹介の意向がある」と分かった人にだけ、提案とクロージングという価値の高い仕事に集中できます。
「やり過ぎない」設計 ── 掘り起こしで最も避けるべき失敗
掘り起こしを自動化するときに最も警戒すべきは、意図せず架電しすぎてしまうことです。自動化は「速く・大量に」実行できることが利点ですが、それは同時に「制御を誤ると大量の迷惑架電を生む」リスクと表裏一体でもあります。ALICEの掘り起こしでは、この失敗を構造的に防ぐため、複数の歯止めを組み込んでいます。
- 同一スタッフへの試行回数に上限を設ける(一定回数つながらなければ、それ以上は追わない)
- 一定期間内に架電できる件数そのものに上限を設ける(想定外の大量架電を機械的に防ぐ)
- 連絡拒否・退会の意思表示があれば、即座かつ恒久的に架電対象から除外する
- 架電してよい時間帯・曜日をあらかじめ制限する
「自動化したから無制限にできる」のではなく、「自動化するからこそ、上限とブレーキを最初から仕組みに組み込む」── これが掘り起こし設計の大前提です。効率を追い求めるあまり相手の迷惑になっては、本末転倒だからです。
掘り起こしの効果を「歩留まり」で捉える
掘り起こしの効果は、架電した件数ではなく、その先の歩留まりで評価すべきです。次の指標を、施策の前後や月次で追っていくことをおすすめします。
- 接触率: 架電に対して実際に会話が成立した割合
- 求職中率: 接触できたスタッフのうち、実際に案件紹介を歓迎する状態にあった割合
- 案件提案化率: 掘り起こしから、担当者による具体的な案件提案に進んだ割合
- 再稼働率: 最終的に案件が決まり、実際の就業に至った割合
- 苦情・架電拒否率: 過剰な接触になっていないかを示す、必ず低く保つべき逆方向の指標
仮に休眠スタッフが3,000名おり、そのうち人手では年に一度も連絡が取れていなかったとします。掘り起こしを自動化し、月あたり数百名規模で定期的に接触できるようになれば、これまで死蔵していた母集団の一部が、広告費を一切追加することなく再稼働につながります。新規獲得のコストが上がり続けるいまだからこそ、「すでに獲得済みの資産をどれだけ活かせているか」は、費用対効果の面で最も見過ごされている改善余地のひとつです。
導入は「対象の絞り込み」から
掘り起こしの立ち上げも、他の自動化と同様にスモールスタートが原則です。休眠スタッフ全員に一斉架電するのではなく、まずは条件を絞って始めるのが安全です。
- 対象の絞り込み: 稼働終了から一定期間内(たとえば直近6か月〜1年)のスタッフに限定して開始する
- 架電ルールの確認: 上限回数・時間帯・除外条件(すでに退会済み、架電拒否済みなど)を最初に明文化する
- 小規模実行とレビュー: まずは数十〜数百件規模で実施し、会話の要約を人が確認して違和感を洗い出す
- 結果の分類確認: 就業中/求職中/連絡拒否といった分類が正しく記録されているかを検証する
- 段階的な対象拡大: 問題がなければ、対象期間や件数を広げていく
この進め方の利点は、「上限や除外条件が正しく機能しているか」を小さい規模で確認できることです。掘り起こしは一度に大量の対象へ働きかけられる分、設計ミスの影響も大きくなります。小さく始めて検証するプロセスを飛ばさないことが、結果的に最も安全な近道になります。
まとめ ── 掘り起こしは「新しい営業」ではなく「資産の再活用」
休眠スタッフの掘り起こしは、目新しい営業手法ではありません。すでに自社に登録し、一度は実際に働いてくれた人材という資産を、放置せずに再活用するという、極めて地に足のついた取り組みです。にもかかわらず、この業務が後回しにされてきたのは、担当者の意識の問題ではなく、「定期的に・大量に・もれなく連絡し続ける」という運用そのものが、人手の稼働時間では担いきれなかったからです。
AI音声エージェントによる掘り起こしの自動化は、この運用上の制約を取り払います。ただし、それは「無制限に架電してよい」ことを意味しません。むしろ自動化するからこそ、試行回数の上限、架電拒否の即時反映、時間帯の制限といったブレーキを最初から組み込む必要があります。速さや件数を追い求める前に、まず「やり過ぎない設計」を固めること。それができて初めて、休眠スタッフという資産は、追加の広告費なしに稼働率を押し上げる現実的な打ち手になります。
新しい応募者を集める前に、すでに自社を選んでくれた人たちに、もう一度声をかけられているか。掘り起こしは、採用活動における「一番簡単に見落とされる改善」かもしれません。